ゴマに含まれるセサミンとエピセサミン

ゴマの栄養素セサミンは、肝機能の向上や老化防止、うつ病予防など様々な効能で人気がある栄養素です。
あまり知られていませんが、このセサミンとは少し構造が違う物質「エピセサミン」というものが存在します。
「もう一つのセサミン」ともいうべきエピセサミンとはどのような物質なのでしょうか?エピセサミンとセサミンの違いや、エピセサミンの効能についてご紹介します。

立体異性体とは

セサミンとエピセサミンの違いの前に、立体異性体というものについてご説明します。
同じ種類、同じ数の原子を持っているものの違う構造をしている化合物の関係を「異性体」と呼びます。
異性体にも様々な種類があるのですが、その中でも原子同士の結びつきの順序は同じなのに、原子の立体的な配置が異なる異性体のことを「立体異性体」と呼びます。
簡単に言うと、右手と左手の関係のように、小指から親指までの5本の指の並び順は一緒であるのに、立体構造としては全く異なるもの、これが立体異性体です。

立体異性体は、普通の異性体と違って原子の順番までは一緒なので、そんなに性質は変わりません。
しかし、酵素との反応など、人体内部における振る舞いは少しずつ違うため、研究機関や製薬企業の研究対象となっています。

エピセサミンはセサミンとどう違う?

エピセサミンとセサミンも、立体異性体の関係にあり、エピセサミンのエピ(epi-)とは立体異性体の化合物の名前につける接頭辞です。

ゴマ油を精製する過程で、セサミンの約半分がエピセサミンに変化します。
セサミンとエピセサミンの構造の違いですが、セサミン中の枝分かれした構造の一部の向きが変わっているだけですので、図で見てもよくよく目を凝らさないと違いが判らないほどの僅かなものです。

実は普段私たちが目にしているセサミンの健康食品などはみな、セサミンとエピセサミンの混合物なのです。
ゴマにはセサミン以外にも、セサミンに構造がよく似たセサミノールやセサモリンといったゴマリグナン類が含まれていますが、エピセサミンの場合、これらのゴマリグナン類よりもさらにセサミンに近いため、わざわざセサミンとエピセサミンを区別して記載しないのでしょう。

セサミンとエピセサミンで効果は変わるのか

では、セサミンとエピセサミンで健康への効果は変わるのでしょうか?
構造がほとんど同じこともあって、セサミンとエピセサミンの違いはほとんど注目されていなかったのですが、農業・食品産業技術総合研究機構がセサミンとエピセサミンの生体内における機能の違いについて、ラットを用いた実験で明らかにしました。

この実験とその結果について簡単にまとめると次のようになります。

実験結果

・セサミンとエピセサミンそれぞれを飼料に混ぜてラットに10日間与えたところ、エピセサミンは肝臓の脂肪酸酸化系酵素の活性と遺伝子発現を大きく上昇させたが、セサミンでは弱かった

・ゴマリグナン類にはビタミンEを節約する作用があるが、肝臓中のα-トコフェロールの量を比べると、エピセサミンの方がセサミンよりも多かった

・同量のセサミン、エピセサミンを与えて、ラットの血清の濃度を調べたところ、セサミンが11.2μg/dlであったのに対し、エピセサミンでは49.3μg/dlであった

・セサミンとエピセサミンを投与した後のラットの血清中の濃度を調べたところ、投与後7~10時間でピークになった後に低下した。
各時間における濃度はエピセサミンの方がセサミンよりも高かった

・セサミンとエピセサミンの血清中の濃度変化を解析すると、セサミンが最も体内における分解速度が大きいことが分かった。
また、吸収率はエピセサミンの方がセサミンよりも高かった

セサミンとエピセサミンの効果の違い

この実験結果を元に考えると、セサミンとエピセサミンの効果の違いは次のように結論づけることができます。

  • ・脂質の代謝に関しては、エピセサミンの方がセサミンよりも効果がある
  • ・ビタミンEを節約する働きに関してもエピセサミンの方がセサミンよりも効果がある
  • ・セサミンよりもエピセサミンの方が体内に多く蓄えられる
  • ・セサミンよりもエピセサミンの方が体内に吸収される量が多く、セサミンはエピセサミンよりも短時間で分解されてしまう

いかがでしょうか。
具体的な効能に関しては脂質の代謝とビタミンEの節約に関するものだけでしたが、エピセサミンの方がセサミンよりも優れていると明白にわかる実験結果ですね。
また、市販のサプリメントに含まれる「セサミン」の半分がエピセサミンであることから、セサミンサプリメントによる肝臓の脂質代謝向上の実態は、エピセサミンによるものであるとも結論づけられています。

違いがない効果もある

農業・食品産業技術総合研究機構が行った別の実験では、血中脂質の低下や脂質合成酵素に対する作用に関して、セサミンとエピセサミンの比較が行われました。
その結果、トリグリセリドやコレステロール、リン脂質といった血中脂質を低下させる効能や脂質合成酵素の働きを抑える効能に関しては、エピセサミンとセサミンとの間に違いがないことが分かりました。

セサミンではなくエピセサミンを摂るべき?

エピセサミンのみのサプリは販売されていない

脂肪の代謝とビタミンEの節約に関する効能の他、体内への吸収率・貯蔵量はみな、エピセサミンの方がセサミンよりも優れていました。

しかし、エピセサミンの方がセサミンよりも優れているからと言って、エピセサミンのサプリメントを購入することはできません。
なぜなら、エピセサミンのみのサプリメントというのは、2018年現在、販売されていないからです。

また、現行のセサミンのサプリメントに含まれている「セサミン」の半分がエピセサミンであることから、費用対効果の問題で、今後もエピセサミン単独のサプリメントは登場しないことも考えられます。

エピセサミンがセサミンよりも優れているとは言い切れない

また、セサミンがエピセサミンに比べて決定的に劣っているかという点に関しても、先ほどの実験だけでは分かりません。

なぜなら、血中脂質の低下や脂質合成酵素の働きを抑える効能については、セサミンとエピセサミンの間に差はありませんでしたし、セサミンにはこれら以外にも抗酸化作用や肝臓の代謝機能の向上、アルコール分解の促進、女性ホルモンのサポートなど様々な効能があるからです。

さらに先ほど挙げた実験はラットを用いたものでしたが、ハムスターやマウスを用いた実験では、セサミンの方がエピセサミンよりも体内に蓄えられる量が多いという実験結果も出ています。

従ってエピセサミンがセサミンよりも優れていると結論づけるにはまだまだ多くの実験と検証を重ねる必要があるのです。
なので、市販のセサミンサプリメントの効果が薄いと決めつけるのは早計です。
むしろ、「セサミンサプリメントの効能の一部はエピセサミン由来である」と頭の片隅に置いておくぐらいで良いのではないでしょうか。

まとめ

ゴマの栄養素セサミンには、構造が少しだけ違う立体異性体の「エピセサミン」が存在します。
ゴマ油を精製する際に、セサミンの約半数がエピセサミンに変化し、市販のセサミンサプリメントに含まれている「セサミン」の半分はエピセサミンとなっています。

エピセサミンは、脂質の代謝やビタミンEの節約といった効能、さらには体内への吸収率や蓄えられる量において、セサミンを上回るという実験結果があります。
しかし、血中脂質の低下や脂質合成酵素の抑制に関しては、セサミンと差がないというデータもあります。
また、これらの実験がラットを用いて行われているのに対し、マウスやハムスターでは結果が違ってくるという話もあるため、一概にエピセサミンの方がセサミンよりも優れていると言うことはできません。
さらなる実験や検証が必要です。

ただ、市販のサプリメントの脂質代謝に関する効能は、セサミンサプリメント中のエピセサミンによるものであるということは頭に入れておいてもよいかもしれません。

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